ハンターハンター30巻の感想 キメラアント編は王が主人公
ハンターハンターの30巻は、18巻から続くキメラアント編の最終巻である。この30巻で、キメラアントと人間との戦いがついに終結する。
その壮絶なラストは、多くの人が感動して涙を流した。メルエムとコムギの掛け合いは見事であった。
何より素晴らしかったのは、生まれたときとは比べ物にならないほど、王が精神的な成長を遂げたことである。
王メルエムは、キメラアント編の主人公だと言ってもいいだろう。
ハンターハンターの30巻の感想を、少し掘り下げながら見ていこう。
王とコムギの愛
ハンターハンター30巻の究極の問いかけとは、次のようなことである。
もしあなたが数時間後に死ぬことが分かっていたら何をしますか?
メルエムは、余命数時間という限られた時間を、コムギと共に過ごすことに選んだ。メルエムにとって最も大切なモノは、愛する者の存在だったのである。
生まれてくる意味とは、愛し愛されるため
コムギの記憶を取り戻した王は、彼女以外には目もくれなかった。メルエムのこの姿から学ばされるのは、
いつか死ぬのだから、大事なことを最優先にして生きなければならない
ということである。
今 余が望むものは、残された時間をコムギと過ごしたい。それだけだ
この言葉にこそ、著者が伝えたかったことが集約されているように感じられた。
あのときメルエムが欲しかったものは、コムギとの時間だけであり、それ以外のものは何もいらなかったのである。
メルエムは数時間後に死ぬという極限の状況の中、
時間こそが命であり、その命の時間を決して無駄にするな
ということを教えてくれた。
翻って私たちの生き方はどうだろうか。
明日死ぬかもしれないという気持ちで毎日を生きているだろうか。
自分にとって最も大事なことだけを選んで生きているだろうか。
もし、大事なことだけを選んで人生を歩めたらなんて素晴らしいだろう。
それはつまり、大事なもの以外は全て捨て去ってしまうという生き方だ。
あなたは、明日死ぬかもしれない状況でも、自分の大切な命の時間を嫌なことのために削るだろうか。
- 上司の付き合いで参加した飲み会は、本当に行きたかったのか?
- 今勉強している資格試験は、本当にとる必要はあるのか?
- 友人に勧められたからと言って、読みたくもない本を読んでいないか?
世の中の幸せな成功者たちは、時間を何よりも大事にしているから、自分がやりたくないことは極力やっていない。
- 行きたくない飲み会には参加しない。
- 持っている資格は車の免許だけ。
- 勧められても読みたくない本は読まない。
実は成功者にはこういう人が多いのである。彼等は幸せになるための方法をよく知っているのだ。
コラム
飛行機の墜落事故の様子を記した「墜落遺体」というノンフィクションの本がある。
これによれば、墜落することを知った乗客員たちの中に、遺書を残す者が複数いたそうだ。
数十分後に死ぬという極限の状況の中、彼らが最後に残した遺書の中には、家族への愛や感謝が書き綴られていたという。
人間もキメラアントも同じ
ネテロが蟻を倒すのに選んだ「薔薇」には、毒があった。
結局、どんな生物も自分たちの種族を守ろうと必死になるのだ。
人間は人間を守ろうとするし、キメラアントはキメラアントを守ろうとする。
キメラアントが人間を殺すのは、人間がキメラアントを殺すのと同じ理由だったのである。
そこに人間とかキメラアントとかの境界線はなかった。それぞれがあるがままに生きていたのである。
命よりも重い忠義と覚悟
護衛軍と討伐隊、どちらも命がけの姿が描かれた。命をかける原動力になったのは、
- 護衛軍(キメラアント)・・・ 王に対する忠義
- 討伐隊(人間)・・・・・・・ 種全体を守る覚悟
であった。
忠義
シャウアプフが望んだのは、王が生物統一を成し遂げた世界をつくることだった。
それが王のためだとプフは心の底から信じていたのだ。
「私はあの時すでに死を覚悟した身。殉じよう己の忠義に」
結局プフは、王が本当に望んだものを与えることはできなかったが、王のことを真剣に考え忠義を尽くそうとしたプフを責めることはできるだろうか。
覚悟
討伐隊が背負っていたのは、全人類の存亡であり、キメラアントとの戦いはまさに命をかけた戦いであった。
キメラアントと人間の戦いは、見方を変えれば国と国との争いである。
国家が存亡の危機に瀕したとき、時として命がけで戦わなければならないのは、我々も同じなのである。
命をかけて種族を守ろうとした討伐隊の覚悟は、平和ぼけした我々の目を覚まさせてくれる。
故郷への想い
30巻では、レイナとブロウーダが故郷のNGLに戻るシーンが登場した。
メモ
レイナ・・・・・ 18巻の後半でキメラアントに襲われた女の子
ブロウーダ・・・ ロブスター型のキメラアント
蟻の姿になったレイナを、村の人々は温かく迎えてくれた。
蟻として一人で生きて行くことを誓ったブロヴーダも、レイナの「一緒に」という言葉を受けて、同じ村で暮らすことになった。帰る場所が見つかったブロヴーダは涙を流した。
2人は蟻として野生で生きていくこともできたが、人として故郷で生きていくことを選んだ。
このシーンは、故郷のありがたみを感じさせてくれる。
どんなに距離が離れたり年をとったりしても、生まれ育った土地への気持ちはいつまでも心にあり続けるものだ。たとえ国境線が無くなったとしてもである。
ジンが言ったように、
「どれだけ時間が経とうとも、自分が自分であることは絶対に変わらない」
のだ。人は自分の居場所を求めている。
- ゴンが度々くじら島に戻るのはなぜか?
- キルアが屋敷に帰るのはなぜか?
- クラピカが同胞のかたきを討つのはなぜか?
- 幻影旅団が流星街を守ったのはなぜか?
人は故郷への愛着を捨てきれない。故郷への愛着が人や社会を動かしているのだ。
メルエムがネテロに話した、「国境線を無くして世界を統一する」ことなど、そもそもできなかったのだ。
国家という枠組みができたのは、ナショナリズム、つまり「愛着」が起因しているということを、生まれたてのメルエムは知らなかった。
最初から理想の世界などつくることはできなかったのである。
王メルエムの成長
王は凄まじい速さで成長した。
- 能力的
- 精神的
な成長は目を見張るものがあった。
精神的な成長が描かれたという意味では、メルエムがキメラアント編の主人公と言ってもいいだろう。
最初は人間を家畜と同等に扱っていたメルエムであったが、
- ゼノやネテロ
- コムギ
とのやりとりを通して、次第に人類への敬意の気持ちが芽生えてくる。
メルエムは、
- 生まれてきた意味は何か?
- 自分は一体何者なのか?
ということを自問するようになっていく。
自分の力は守るべき者達のために使うということ、生まれてきた意味はコムギに出会うことだったと理解した。
生まれたばかりの王は、自分以外のものは食べ物としてしか見ていないような暴君であったが、死ぬ間際の王は、人智をはるかに超えた存在にまでなっていたのだ。
今の余ならば神とまでは言わぬが、この世を・・・いや、全てが一致しての現在だからこそ、そう思うだけなのかも知れぬ
討伐隊の最大の功業は、キメラアント側に精神的な成長を大きくもたらしたことだった。
キメラアント達は、自分たちで幕を開け、自分たちで幕を閉じてくれたのである。
王の成長が物語の鍵だった。彼等の背中を押したのが、ハンターサイドの人間だったのだ。
まとめ
最後にまとめとして、
- なぜ30巻は多くの人が感動したのか?
- なぜキメラアント編は面白かったのか?
ということを、物語の作り方の視点から見ていこう。
緊張と緩和
30巻は緊張と緩和の展開が素晴らしかった。
実は、感動させるストーリーには決められた公式があり、緊張させておいて緩和させるのが人を泣かせる物語の書き方の定番なのである。
王が復活を遂げてからの緊張感は凄まじかった。誰にも王が倒せそうにないという絶望感があったのだ。
その後、ウェルフィンが王に食べられそうになるシーンで緊張はピークに達した。
そして、王がコムギを思い出したことで一気に緊張は緩和し、作品全体に安堵感が漂ったことで、私たちの心が動いたのである。
ハンターハンターの30巻は、感動させるストーリーの典型的な型に沿って作られているのだ。冨樫先生のストーリーの構成とまとめ方はさすがと言わざるを得ない。
魅力的な悪役
ヒットする作品には、必ずと言っていいほど魅力的な悪役がいる。対立する敵がいることで、葛藤が描かれ面白い物語になるのである。
王はキメラアント編の主人公でもあったが、魅力的な敵でもあった。圧倒的な強さを誇り、仲間さえも餌にする残虐な姿は恐怖そのものだった。
- 幻影旅団
- 護衛軍
など、ハンターハンターには魅力的な悪役が多い。
まとめのまとめ
ハンターハンターの30巻でも色々なことに気付かされた。内容はとても濃かったと思う。
「漫画なんて読まずに勉強しなさい」なんていう言葉を聞くが、私は漫画こそ人生の最高の教科書だと思う。
楽しく勉強できるという意味では寧ろ漫画で勉強した方が良いくらいである。
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